2008年2月29日金曜日

立退き交渉の話し

シロアリ騒ぎや蚊の集団発生なんて当たり前、近所の人たちが右往左往して、その度に管理会社に苦情が持ち込まれてもなしのつぶて。
そんな文化住宅は、ミニ開発による小規模住宅が建ち並ぶ地域の一角にある。築43年の二階建て建物。中途半端な立ち退き交渉の結果か?あと2戸だけがガンとして譲らない。
こんな話を持ってくるのは、いつも大手住宅メーカーのアパート・マンション部隊。家主の前で立ち退きのプロと紹介されると、思わず引きつり笑いが出てしまう。
『ちがうで~』と言いたいのだが、『どうとでも紹介してくれ』という気になる。
家主との最初の面談で状況を聞いてみると、家主は福井県に住んでいる。文化住宅は商売の関係で先代が買ったもので。二代目は厄介な代物と言いたげである。最近は4~5年現地を見たこともないし、ましてや借家人の名前も知らないとのこと。とんでもない状態である。
全て管理会社任せだがその管理会社も力の入らない物件で放ったらかしなのだ。
たまに管理会社から来るのは修繕費の見積書と請求書だけ。家主は訳もわからず支払っているだけなのだ。
家主は、管理会社を通して5年ほど前から出て行ってくれ、と借家人には話しをしている様である。
家主曰く
「出て行ってくれとお願いしても、出て行ってくれへん!」と
『馬鹿かおまえは!そんな事で立ち退いてくれたら苦労はないけど、反対に厄介なんや!
あんた、管理会社に頼んだだけでしょ』!
立ち退き交渉が頓挫するのは、相手の立場が理解できないボタンの掛け違いが原因である事が多い。その相手とは65歳の小太りおばちゃんである。どうも、同居人がいる様である。
同居人52歳。弟かと思っていたら、彼氏の様である。本人は高血圧だと言うが血気盛んなはずや。おったまげた話である。
通常、家賃の集金と一緒に立ち退きの話も進めていくのが常套手段ですが、
挨拶後一回目の集金も終わり、それとなく聞いてみた。
「建物もだいぶ古なってるけど、どう?」
おばちゃんは待ってましたとばかり、
「ほら、表の廊下のトタン穴が空いてるやろ!この前の雹で抜けたんやで。バリバリバリてそらすごかったで。」
「屋根の下で傘ささなあかん様になってるで」
「そやし、窓に隙間があって寒うて、寒うてかなわんわ」
そんなときは、
「そやな、そやけど修理するとお金かかるしな。そんなお金があったら少しでも有利な条件で立退きの話したいね」
「どうしても、あかん時は言ってちょうだい」
とぼけてしまうに限る。
今までの、家主や修繕にたいする不満が出てくるのは仕方がない話である。
「ここに住んでたら、何処へも行かれへんわ!」
たいてい、この言葉から始まる。
「この辺はええで。友達も一杯おるし、なんせ住んでる人がええもん」
住めば都です。それに自分たちで建物を修繕しながら住んでるから、自分の家みたいなもんです。しかも、年配になって新しい環境に変わることへの不安は絶大な物です。
どうしても家族と一緒に話をしなければ解決できません。
実は、おばちゃんは5年前に近くのアパートの立退きにあい移転してきたのである。これで3回目の立退きである。相手は手慣れたもので、立退きの話を切り出すと、『そんな話もあるやろなあ~と思ってたわ』と平然としている。
相手の方が一枚上手かもしれへんでと思ってしまう。
次は、ゆっくりと世間話の中で、家族関係について話を聞き出す。
子供は娘が一人で、車で1時間程度の場所にいる様である。
「娘は、自分の近くに来いと言うけど、ここから離れたくない」とぽつりと話す。
そして、5年前までは、近くで働いていたけど、高血圧と膝の痛みで最近は病院通いである。
こういう場合、娘さんと話しをするのが早い。
2週間後、娘夫婦を交えての交渉が始まった。
短刀直入に話を切り出す。
「立退きの話やけど、建物も古くなって、危ない状態です。今度地震でもあったら大変なことになります」
「近所つきあいとかいろいろあるかも知れませんが、何とか円満に解決したいと思っています」
「絶対に嫌やて言うんやったら、先に言ってくださいね」
「話が進められる様なら、家主との間で調整します。そやけど、あんまり無茶言われたら私も知りませんよ」
立退き交渉の手法は色々あるが、
条件提示の方法とタイミングである。
総額でこれで立退いてくれと言う方法もあるが、力業である。場合によれば根拠のない交渉が永遠と続く事になる。最後には居座りと強行突破の対立になってしまう事が多い。
それを避けるためにも、妥協や納得できる根拠に基づいて、到達点を模索する事である。あくまでも客観的な判断のできる材料で勝負する事である。
立退き予算の60%~80%程度での条件提示が多いのだが

立退料の提示項目は次の5点である。
① 引越し費用
② 保証金差額
③ 家賃差額
④ その他
⑤支払条件
具体的に説明すると
①家族構成・間取りにより概算を算出する。
②同程度の貸家の保証金相場から現在の預り保証金との差額を計算する。
最近、マンションが多くなって文化住宅等が近隣に存在しない場合も多い。幾分かの調整が必要となる。
③移転先の家賃との差額であるが、②と同様に幾分かの調整が必要となる。
合意書の締結・移転先の確保が完了した時点で、現在の家賃支払いを免除する事が多い。
移転先が決まると早く移転したいと思うのが常であり・早く、その気にさせることである。
交渉現場では、
「話が決まったら、移転先を見つけるための費用はお渡ししますし、移転先が決まったらここの家賃も止めましょう」となる。

④その他は、移転先の仲介費用・移転手続きの煩雑さに対する迷惑料・引越挨拶状等の負担などを考慮して決める。
⑤支払条件は、先行して必要な移転費用の確保を考慮して考えなければならない。移転の確実性等を考慮しての判断が必要となる。
相手方の条件としてよく主張されるのが、
「このタンスも次の所へ持って行かれへんし、クーラーも移転できひんしなあ」という様な言葉である。それは、これは、借家人の勝手な意見であるがあまり拒絶すると角が立つ。
「何もかも家主が負担するのはおかしいで。ある程度は考えてもらえるやろけど、期待はせんといてや」
また、これは邪道ではあるが、
「私も早く解決する事を望んでるし、積極的に協力してもらって立退きが早く完了するなら、私の報酬からいくらかは補填しますよ」と言う場合がある。
「そらあかんで、そら悪いで」といいながら、借家人はニヤニヤするのである。
事業としては立退きが早く終われば、それだけ効率的である。その分を補填費用に充てるのである。

立退きが確実かどうかも解らないのに費用を先行して払うことに対しては、抵抗があるが、金の無い借家人は次の家も借りられないのである。
立退合意書締結時に一時金を払い、移転先が決定した場合にはその契約書を確認し中間金を支払い、立退完了確認後に残額を支払う事になる。場合によっては、移転先契約に同席しその場で中間金を支払う事もある。

さてさて、おばちゃんとの立退き交渉だが、『元気な間に、近くに住んだら』という娘さんの説得で立退き合意は早かったが、問題になったのは彼氏との老いらくの恋である。
おばちゃんは、「彼氏の住むところが無くなると可哀想や」と言って、泣き崩れている。
そうかといって移転先は娘の家の近くなので、彼氏と同居するわけにはいかない。
今度は彼氏の説得である。
「職を見つけて自立をしないと」
「何時までも今の状態を続けることは無理ですよ」
彼氏もやっと解ってくれたので、立退き期日を決めて合意書の締結日を決定することになったが、なんとも、悲しい別れであった。
最後に
一般的な立退き交渉の裏話であるが、立退きは相手の生活や人生観を理解する事が出発点である。感情論に流されないように客観的条件を示すことが第一である。今回、占有を生業とする専門人との交渉については書けなかったが、その交渉はより客観的であり別の視点が必要である。また、相手もプロである以上早期解決の効用は十分理解している。別の意味で話は早いのである。話が纏まったら2~3日以内に立退きが完了する世界なのである。

2008年2月1日金曜日

不動産はどう動く(2005年を見据えて)

「人口減少社会」・「2010年問題」・「建築不況」・「ザブプライムローン」と厳しい話題ばかりの年明けである。
 人口減少問題・2010年問題・超高齢化社会の始まりの年である。現在はその序曲にすぎない事を肝に命じなければならない。本当の人口減少は17年後にやってくる。団塊の世代が80代に突入した時期である。団塊ジュニアが50代となり、団塊ジュニア・ジュニアが社会人となる時期である。この17年間で限界村落が崩壊村落となり、限界都市が生じることになる。団塊世代の急激な減少により都市崩壊が生じる恐れがある。団塊ジュニア以降の世代を考え、17年以降を視野にいれた都市福祉政策が課題となる。都市政策と福祉政策の融合であり、行政主導の街作りからの脱却である。また、限界村落の再生に向けた、農地法の改正提言を視野に入れた企業型農業への誘導が必要となり、場当たり的な補助金政策では食料危機は回避できないのである。団塊世代が農業に回帰するという妄想は捨てて、企業型の農業の確立が急がれる。守るべきものは、日本に住むものの食料であり、小規模農家ではないはずである。
耐震問題・建築基準法改正の影響を受けた建築不況は国家政策の稚拙さといわざるを得ない。しかし、200年住宅が必要なのであろうか、20年周期で日本が変わろうとしている時期に、住宅資本の固定化を図るべきであろうか?疑問が残る。なぜ、短絡的になるのだろう。住宅土地調査会長が福田康夫氏であったからとは考えたくないのであるが。日本の木造住宅は建替までの期間が短く、地域の変化に柔軟に対応でき、そのことが、土地活用・再生の原動力となって経済発展をしてきたことを思い起こしてほしい。このことが、100年後に遺恨を残す超高層マンションの乱立の再現にならないかが心配である。
今、急がれることは地域のコミュニティの再生にほかならない。地域コミュニティとの連携型事業が最良の生き残り策であると考える。NPO法人・医療法人との協働による、介護、医療連携型の居住空間が求められている。
サブプライムローン問題により日本経済も影響を受けている。しかし、本番はこれからである。サブプライムローンはアメリカの問題と思っていないか?日本にもサブプライムローンは存在する。旧住宅金融公庫のローン条件の緩和とステップ返済のつけがそろそろ顕在化しようとしている。構造的不況の中、返済額の急激な増加に耐えられない債務者が日本国内でも大量に出現するであろう。日本型サブプライムローンの破綻シナリオを検討すべき時期にきている。
また、不動産証券化商品の組替えが急激に行われている現状を見るにつけ、バブル前夜のような様相が見える。サブプライムローン証券と同様に黒い足音が聞こえるのは私だけであろうか?3月末にかけて、建築関連企業大型倒産の足音が聞こえてくる。フアンド融資を蹴られた物件、建築確認の遅れで資金繰りが悪化した事業、保有資産の資金化等の動きが始まっている。これを、危機と考えるか?絶好のチャンスと見るか?どちらのポジションになれるか?気の抜けない数ヶ月となるであろう。
注視すべきは医療・福祉の変化である。医療・福祉と社会資本である不動産との関わりである。2008年は診療報酬の改定時期である。後期高齢者の保険制度も変わり、介護療養型医療施設の廃止で23万床を削減されようとしている。高齢者が地域へ放り出されるのである。医療法人の賃貸事業参入や高齢者専用賃貸住宅制度の創設などその対応を急いでいる。日本の高齢化社会に対応するコミュニティをどう組成するか重要な時期である。
姥捨山のような高齢者専用賃貸ゲージは作ってほしくない。