2012年10月16日火曜日

成年後見人と刑法244条1項の責任(最高裁判例)

平成24年(あ)第878号 業務上横領被告事件
平成24年10月9日 第二小法廷決定

量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

事由
家庭裁判所から選任された成年後見人であり,かつ,成年被後見人の養父である者が,後見の事務として業務上預かり保管中の成年被後見人の預貯金を引き出して横領したという業務上横領の事案があり、成年被後見人の養父であることは,刑法255条が準用する同法244条1項の趣旨に鑑み,量刑判断に当たり酌むべき事情であると主張していたが認められなかった。

家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって,成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから,成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合,成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても,同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより,その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではないというべきである(最高裁平成19年(あ)第1230号同20年2月18日第一小法廷決定・刑集62巻2号37頁参照)。

私見
親族による成年後見制度の悪用、落とし穴に対しする警鐘である。任意後見制度においても、親族による任意後見を推奨する場合がいまだに多い、そのおおくの理由には費用面が言われる。財産管理、保全等について専門的知識のない者が、親族であるとの理由だけで後見人適格で有るかは疑問である。最高裁の判例は氷山の一角であり、成年後見制度において守るべきは何かをもう一度考えなければならない。

信託を利用した、専門家による、被成年後見人の保護、任意後見制度の普及が望まれるのではないか?

刑法244条(親族間の犯罪に関する特例)

1項  配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2項 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3項 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

2012年9月28日金曜日

借地借家法38条2項書面(最高裁判例)

平成22年(受)第1209号 建物明渡請求事件【平成24年9月13日 第一小法廷判決】

判旨
借地借家法38条2項所定の書面を交付しての説明がないから,本件賃貸借は定期建物賃貸借に当たらない。



適法に確定した事実関係の概要。

* 甲は,不動産賃貸等を業とする会社である。
*乙は,貸室の経営等を業とする会社で,本件建物において外国人向けの短期滞在型宿泊施設を営んでいる。

甲乙は,平成15年7月18日,「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わし,期間を同日から平成20年7月17日まで,賃料を月額90万円として,本件建物につき賃貸借契約を締結した。

本件契約書には,本件賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了する旨の条項(以下「本件定期借家条項」という。)がある。

甲は,本件賃貸借の締結に先立つ平成15年7月上旬頃,乙に対し,本件賃貸借の期間を5年とし,本件定期借家条項と同内容の記載をした本件契約書の原案を送付し,乙は,同原案を検討した。

甲は,平成19年7月24日,上告人に対し,本件賃貸借は期間の満了により終了する旨の通知をした。

理由
期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは,公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(借地借家法38条1項),そのような賃貸借をしようとするときは,賃貸人は,あらかじめ,賃借人に対し,当該賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(借地借家法38条2項),賃貸人が当該説明をしなかったときは,契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(借地借家法38条条3項)。


紛争の発生を未然に防止しようとする借地借家法38条2項の趣旨を考慮すると,上記書面の交付を要するか否かについては,当該契約の締結に至る経緯,当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく,形式的,画一的に取り扱うのが相当である。

借地借家法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。

本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。本件定期借家条項は無効というべきであるから,本件賃貸借は,定期建物賃貸借に当たらず,約定期間の経過後,期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(借地借家法26条1項)。

定期借家契約における定期借家で有る旨の説明書面の交付、説明は、形式的、画一的に判断される。説明書面の交付、説明は賃貸人にかせられており、くれぐれもお忘れ無く!!