2010年5月27日木曜日

借地の研究(005)

 無断譲渡


借地借家法14条

無断譲渡を理由に契約が解除された場合、建物を譲り受けたものは、地主に時価で買い取る様請求できる。?

最高裁判例昭和30年11月22日

賃借人の無断譲渡が賃貸人に対する背信行為と認められる場合は、無断譲渡による契約解除が肯定される。

大審院判例昭和2年4月25日

借地権付建物の競売事案について、建物が競落された場合に、建物所有者であったものと建物買受人に移転すると解すべきである。

特約事項で地主の承諾が得られることを建物の所有権移転および土地賃借権の譲渡の停止条件として明確にする必要ある。

また、契約後の対応や手付金、中間金の額等も問題となる。実質的な権利移転と考える場合は無断譲渡と認定される。

借地権付建物の底地の瑕疵

最高裁判例平成3年4月2日

敷地の瑕疵は、借地権の性能上の瑕疵というものではなく、借地権者と敷地所有者たる貸主の問題であり、その瑕疵の責任は、貸主に対して問われるべきである。しかし、敷地面積の不足、敷地に関する法規制、または賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、建物とともに売買された賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしており、瑕疵担保責任を追及できる。


個人の土地建物を法人に貸す場合

賃借人の法人成りの場合

 最高裁判例 昭和39年11月19日

 個人営業からの法人成りについては、無断転賃であるとしています。しかし、会社(経営)の実権は従前の賃借人が掌握し、賃借建物の使用状況等も、個人営業の時と実質的に変化のない場合は、背信性はなく契約解除権は発生しないとしています。

 最高裁判例 昭和46年11月4日

 この実質的な変化及び背信性の有無については賃借建物の使用状況の変化を基礎に具体的に判断するとしています。

 しかるに、会社(経営)の実権が第3者に移ったときは、事情が変更され、その時点で信頼関係が破壊されたとして、契約解除権が認められます。
 この場合において、実質的な支配権が第3者に移った事が外形上判断しにくく、この実権の移動を追証したと言われかねない事に注意が必要です。

法人成の禁止条項

 賃借人は本件××における営業権をいかなる形態を問わず、法人名義とする事はできない。

 賃借人は本店舗を、法人の本店もしくは支店、営業所、出張所などの所在場所としてすることはできない。

 前項のいずれかに該当する場合は事由のいかんを問わす、無断転賃とみなされ、賃貸人は賃借人に対して本契約を解除し、本件××の明渡しを求めることができる。



株式譲渡(全株式)と賃貸権の譲渡

 ①全株式の譲渡が民法第612条の規定を潜脱するものではない。
 ②譲渡後の賃借人の営業目的や本件建物の使用状況に変更がない。
 ③譲渡後の賃借人の支払い能力に不安を感じさせる恐れがない。

 上記の場合には、株式が譲渡されたとしても、賃貸権の譲渡とはならないとしています。しかし、株式譲渡により経営者が変更される等、信頼関係の基礎となる部分に変化がある事は重要な問題だと考えられます。

 地主の承諾

借地権の譲渡問題

借地人が借地権を譲渡するには、地主の承諾が必要です。借地権の譲渡を認めても特段地主の不利益にならないような場合には、仮に地主が借地権の譲渡に承諾を与えなくても、譲渡を認めてあげる必要が出てきます。その制度として、借地権者が借地非訟手続という手続によって、裁判所に対し地主の承諾に代わる借地権譲渡許可の裁判を求める申立をすることができるとされています(借地借家法第19条)。裁判所は、借地権者から申立があると、借地権の残存期間、地代の支払い能力、借地に関する従前の経過、借地権の譲渡又は転貸を必要とする事情、その他一切の事情を考慮して許可の申立を認めるかどうか判断します。許可されれば、地主の承諾がなくても家と借地権を自由に譲渡することができます。そして、認める場合にも、当事者間の公平を図るため必要があるときは、地代の変更などの借地条件の変更を命じたり、借地人に地主への一定の財産上の給付(承諾料)を命じます。地主の承諾を得るために支払われる金員が借地権譲渡承諾料と言われ、借地権価格の10%程度が普通言われています。(売却価格の10%でない。)  

最高裁判例昭和34年9月17日

借地権譲渡にあたっては、特別の事情がない限り、譲渡人は、譲受人に対し、譲渡につき遅滞なく賃貸人の承諾を得る義務を負うものと解されている。


 譲渡承諾料(国有財産)

 名義書換承諾料
相続税評価額×借地権割合×10/100

増改築承諾料
相続税評価額×5/100

       ×3/100(非堅固)

 賃料についても算定基準があります。物納条件においても、この算定基準に適合する必要があります。一般の契約と違うとすれば、権利金等の授受がない事です。

 競売と地主の承諾

2ヶ月以内に地主の承諾か裁判所の承諾が必要。承諾が得られない場合は建物買取請求は可能。

 競売により、借地権付建物を取得した場合には、2ヶ月以内に地主の承諾か裁判所の承諾が必要となる。又、賃貸借条について調整がつかず、地主の承諾が得られない場合も、裁判所による判断を仰ぐこととなる。

 地主側から、承諾を得られない場合には、建物買取請求を行うこととなります。この場合、建物価格については時価となりますが、問題となる事が多いです。

借地権譲渡承諾のお願い

 私は貴殿所有の後記記載の土地上の借地権付建物を競落し、代金も既に支払いました。(××地方裁判所     平成××年(×)第×××号、強制競売事件)

 つきましては、同土地の当方による賃借権の譲受けをご承諾頂きたく、ここにお願い申し上げます。

建物買取請求書

 私が、貴殿より賃借していた土地上に所有していた建物を競落した事は、ご案内のとおりです。

 これにつきまして、私は貴殿に対して、賃借権譲渡を承諾していただくようお願いしましたが、このたび貴殿より承諾しない旨の通知をいただきました。

 つきましては、同建物を時価により買取られるよう請求いたします。なお、同時価は金×××万円と鑑定されておりますので、ご参考までに申し添えます。

 無断転貸借

最高裁判例昭和62年3月24日

土地の無断転貸借がされたにもかかわらず、賃貸人に対する背信的行為と認められるに足りない特段の事情が存在するため賃貸人が賃貸借契約を解除することができない場合には、当該賃貸借が合意解除されたとしても、その解除が本来は、賃料不払い等による法定解除の行使が許されるとされたものである等の事情がない限り、賃貸人は、合意解除の効果をその転借人に対抗することができない。

最高裁判例昭和32年12月21日

賃貸借契約の債務不履行に基づく契約解除による消滅原因については、賃貸借契約の終了と同時に適法に行われた転貸借は、債務不能となり終了する。

最高裁判例昭和41年5月9日

実質的に、賃借人の債務不履行が存在し、法定解除し得る場合に、解決策として合意解除の形式をとり、円滑な明渡しを期待した場合にも転借人に対する契約終了の効果を対抗しえる。

最高裁判例昭和42年1月17日、最高裁判例昭和45年12月11日

背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合の無断転貸は、継続的な契約関係である賃貸借の特質上、契約当事者間のの法律関係の安定および衡平を考慮して、承諾があった場合と同様に適法な賃貸借となる。

2010年5月4日火曜日

借地の研究(004)

契約解除通知書


 貴殿と私との間で締結した下記記載の土地に関する賃貸借契約(以下「本契約」という。)について、以下の通り通知致します。

 貴殿は本契約に基づく賃料の支払いを平成××年××月分以降、××月間怠っています。そのため私は貴殿に対して、平成××年××月××日付の催告書において、同年××月××日を限りとして、同滞納賃料相当額をお支払いただくように催告しました。しかしながら、同期日経過後、本日に至るも、滞納賃料のお支払はおろか、誠意ある回答もいただいておりません。よって私は貴殿に対して本通知によって、本契約解除の意思表示をいたします。

 したがって、同土地を平成××年××月××日までの明渡し、並びに同滞納賃料相当額及び遅延損害金の支払いを請求致します。

 なお、損害金等の正確な金額については、別途計算のうえ後日請求させていただきますので予めご承知おきください。

 
契約解除通知書

 貴殿と私との間で締結した下記記載の土地に関する賃貸借契約(以下「本契約」という。)について、以下の通り通知致します。

 貴殿は本契約に基づく賃料の支払いを平成××年××月分以降、××


供託金の還付と取戻し


供託がされた場合に、被供託者は、法務局で、その供託金を受領する事ができます。


〈供託金の還付〉

最高裁判例 昭和33年12月18日

 賃貸人(被供託者)が、何ら留保を付けないで供託金を受け取ったときは、それ以上の金額を残額として請求できない。

 賃貸人(被供託者)は供託金額が増額賃料の一部弁済である旨の留保の意思表示をして、受領する必要があります。従前の地代額が供託されていた場合に、保留せずに供託金を受け取った場合には、従前の地代を認めたとされるのです。これを回避する方法として裁判上では以下の方法が認められています。

 
最高裁判例 昭和36年7月20日

 賃貸人(被供託者)が、賃借人(供託者)に対して、供託金額を増額賃料の一部弁済として受領する目的で供託書を送付するよう求める通知書を送った場合


最高裁判例 昭和38年9月19日

 賃貸人(被供託者)が、供託金額を増額賃料の一部弁済として受領するとの通知書を添付して供託所に対して供託金の還付手続きを行った場合


最高裁判例 昭和42年8月24日

 賃貸人(被供託者)が賃借人(供託者)に対して、供託金を受領するまで、一貫して供託金を超える金額を請求する訴訟を維持継続している場合には、留保付きの還付請求をしたと認められます。


〈供託金の取り戻し〉

 賃借人(供託者)は、賃貸人(被供託者)が供託金の還付を受けるまでは、原則としていつでも〈民法 469条 〉

供託金を取り戻すことができます。しかし、この取戻権は10年で時効消滅すると解されています。(最高裁判例 昭和45年7月15日)

 又、供託金を取り戻した場合は、賃借人が供託をしなかったのと同じ状態になり、賃料が遅延している状態となるのです。


相当と認める金額とは何か。

 客観的に適正な賃料額ではなく、賃借人が主観的相当な賃料額であると判断した金額で足るとされているが、増額請求がされているのに、従来賃料より安い金額を供託した場合や、減額請求をした賃借人が従前の賃料より安い金額を供託した場合、又、公租公課を下回る金額を供託した場合には、債務不履行となる。

 長期間の供託により、供託額が公租公課を下回るなど著しく低額になった場合には、賃借人として信頼関係を破壊する事となる場合があります。

 賃貸人としては長期の供託がされており、公租公課を下回る場合などには、公租公課額を下回る旨の通知をし、その後に信頼関係が破壊されたとして、契約解除する方法が考えられます。

※従前の賃料の1/3、適正賃料の1/10は相当と認められる額ではない。債務不履行となる。解除原因となる。

権利金と敷金、保証金との意味を混合している人がいます。

敷金の返還請求については、新しい判例がでています。一般に言う敷引の判例ですが、消費者保護法により条項が無効とまでいわれています。


賃貸人から借地人への供託金の受取りの通知


通知書

 私が、貴殿に対し、平成××年××月××日より賃料1ヶ月××万円で賃貸している後記記載土地について、平成××年××月××日付内容証明郵便をもって、賃料を平成××年××月××日より、1ヶ月××万円に値上げする旨を通知いたしました。しかし、貴殿は、不服ということで、旧賃料相当額を同年×月分として、×××法務局へ平成××年××月××日付で供託されました。

 つきまして、同供託金を還付して同月分、新賃料の一部に充当しますので、この旨を通知いたします。

 なお、同還付は旧賃料相当額を継続する趣旨ではなく、また貴殿が引き続き供託される場合は同様の措置をとることを念のため申し添えます。


継続的な地代の値上げが可能か、適正な地代への値上げであれば可能(適正な増額であれば可能)と考えられます。適正な地代への値付けであっても、一度に30%増額は認められないと考えられます。長期的な視野にたって、行う必要があります。物納条件の地代水準が、その基準となると考えられます。