1. 一般的な問題点
日常生活に視点を移すと、内廊下型のものでは空調の不備から夏場は玄関からエレベーターに乗るまでに汗がどっと吹き出てとても和服での外出はできないとか、玄関ドアを開けた瞬間、バルコニー側のサッシが開いていたために強風により室内ドアが吹き飛ばされたなどの設計上の問題のほか、先端の免震・制震構造の建物でも、微妙な揺れに対する「ピル酔い」を訴える例もある。日影や風や電波障害の影響範囲も広がる。
また、高層居住による高さ感覚の喪失、出不精による親子の過剰密着、幼児の自発行動の遅行などの現象が指摘されており、これらが将来、居住者の人格形成にどのような影響を与えるかは予測できない。
2. 所有形態による問題点
超高層マンションの所有形態による問題は、一部を除いて、複合用途形態をとっていることにある。
多くの場合、3階までの低層部は店舗、事業所が占め、さらに自治体のコミュニティ施設が併設されていることも珍しくない。また、地下駐車場が設けられていることが多い。超高層マンションが至便な場所に立地し、再開発事業や市街地整備促進事業に拠っていることの結果である。また、低層階住戸を低減させる販売上の意図が働いている。低層部は旧地権者が大口所有や開発時の事業主体が所有する場合もある。また、数棟からなる団地形態をとる場合、一棟だけを事業主体が一括所有し、賃貸棟とする場合もある。つまり、団地形態をとる場合には複合用途区分に、さらに複雑な権利区分が加わる。例えば、地下駐車場、アスレチックルーム、談話室などは、構造的に区画され、独立した用途をもっており、容易に専有部分になり得る。
3. 管理形態による問題点
超高層マンションの複雑な所有形態に対して、近年、分譲されたものは、「マンション標準管理規約」の複合用途型、団地型に準拠して管理規約を設定している。しかし、1990年前後までに供給されたものでは用途区分が管理規約で厳密に規定されていなかったり、「マンション榛準管理規約(団地型)」にいう団地共用、棟共用の概念を明確にしていなかったりするものも珍しくない。管理組合内部にさまざまな課題を内在させていることをも示している。
ちなみに、団地型・複合用途塑超高層マンションのひとつの典型では、まず団地管理組合を置き、棟ごとの規模が大きいので棟ごとに管理者を選任し、棟別管理組合を設置した上で、用途別管理組合、または部会を構成する。ところが、団地型であっても棟共用の区分がなく、棟別管理組合を設置していない場合は、往々にして棟ごとの意見を調整することが容易ではなく、全体合意を図ることの困難である。
また、単棟型・複合用途型超高層マンションで用途別管理組合、または部会がない場合、住宅部分の所有者が事業所・店舗などの「一部共用部分」の管理に関わり、事業所・店舗の所有者が「住宅共用部分」の管理に関わることになり、ここでも、それぞれの利害の調整が容易ではない。
団地管理組合を置き、棟別管理組合を設置した上で、用途別管理組合、または部会を構成する場合でも、マンション全体の管理を円滑に進めていくにはさまざまな課題がある。用途別運営を徹底することは「一部共用部分」ごとの個別性を高める結果となり、全体としての統制を維持できない。
4 住環境としての高層マンション
環境適応力という点から見ると、問題となる年齢層・時期は、適応力が未熟な乳幼児・子ども、適応力が低下しつつある高齢者、そして胎児への影響を含めて生理的・心理的に微妙な時期にある妊産婦の三つである。
高齢者にとっては、高層集合住宅はエレベーターを利用して移動が容易であること、都市の利便性から歓迎され、都心の超高層マンションヘの回帰が進んでいる。この高齢者の視点はさらに強調されるであろう。
高層居住の母子の健康影響に関する研究は、欧米ではすでに1960年代後半から行われ、高層居住に対しては賛否両論があるが、居住者の生活への影響の面から、一部のヨーロッパ諸国では高層住宅そのものが新たに建てられなくなったところもある。
一般の育児環境と違う、20階以上を想定した“超高層”という点であるが、高さにして50~60m程度以上ということになるが気象環境としてみるならば、気温は殆ど地上と変わらず、気圧も地上に比べてせいぜい8~10ヘクトパスカル程度低いだけである。風が強く、窓を開けにくい、洗濯物の出し入れが大変など、生活に微妙に影響する。消防車のはしごも届きにくい高さであるが、これらの条件が生理的に直接、人体に影響を及ぼすことは考えにくい。
高層居住の特性と題点。
(1)居住者が外出しにくい
(2)乳幼児の成長発達がゆがめられやすい
(3)緊急時の避難が難しい
(4)事故、犯罪への不安感が強い
(5)住環境ストレスを受けやすい
(6)母子間の心理的密着過剰を起こしやすい。
(7)生活行動(行動生態)に変化を起こす0
高層住宅ではほとんどの場合、外出にはエレベーター(EV)を使わざるを得ない。大人は自分で外出できるが、背丈の小さな幼少児はEVボタンを押せないため、親と一緒でなければ外に出られない。親がこまめに出ればよいが、出不精であると子どもも外出ができず、遊びにもいけない。高層階居住による心理的開放感や優越感、眺望のよさを好み、他人との付き合いを好まない親の場合はさらに外出しなくなり、したがってそのしわ寄せは子どもにいく。そして、EV内犯罪や子どもが関わる犯罪・事件が頻繁に報じられるようになると、親も子どももあまり外出をしなくなってきた。子どもの成長発達の面から考えると良い影響があるとは考えられない。高層団地の幼稚園児の母親約600人に対して行った調査によれば、61%の母親はEVにのる際に何らかの不安を感じ、さらにそのうち約60%はEV内の犯罪や痴漢を気にしていることがわかった。
高層居住児の生活習慣の自立の遅れを指摘し、その原因として外出不足に基づく、母子間の心理的密着過があげられる。社会状況により外出しなくなり、乳幼児の成長発達の遅れが現れている。
高層住宅が生理的に直接、子どもに影響するとは考えにいが、行動や心理学的影響が問題となる。高層住宅のとりわけ高層階に住む子どもは外出せず、外出しにくい環境にある。小学校や中学校で、たった教室が1階にあるか、2階か3階にあるかというだけで子どもたちの外出頻度は大きく異なる。休み時間などに3階の子どもたちは校庭にあまり出てこない。
外出しにくい環境は母子を高層空間に閉じ込める、母親と子どもの聞には過度の物理的、心理的密着状態がうまれ、子どもの心理的・精神的な自立が遅れ、成長発達の遅れも出てくる。
高層居住の影響を考えなければならない層として妊産婦がある。高層居住は外出不足を招きやすいことから妊婦、胎児への影響を示唆する報告もある。高層群では流早産や死産が多いという報告も一部にあるが、まだ科学的な裏づけが十分ではない。東京都内の高層集合住宅地区で行った研究では、例えば、生下時体重を高層(n=72).低層(n=166)、戸建(n=74)についてみると、高層(3,087g)>低層(3,058g)>戸建(2,996g)となり、高層群のほうが生下時体重は大きい傾向にある。出産予定日は、集合住宅群は戸建群よりも“予定日通り”の割合は小さく集合住宅でも、高層群は低層群より“予定日どおり”は少なく、“早い”か“遅い”に分けられる傾向があった。ストレス対策として、お酒やタバコに頼る母親についても併せて考えていかなければならない。なお生理痛・生理不順の頻度について、同じ高層団地に住む幼稚園児の母親(n=531)と保育園児の母親(n=326)を比較すると、幼稚園児の母親では高層群にその頻度が高い傾向があり、逆に幼稚園児の母親では低層群にその頻度が高い傾向が見られている。これらの差異については、生活行動、ライフスタイルなどの因子の影響を含めて更に分析を要する。
子どもは高いところが好きである。高層住宅に住む場合は高所感覚に麻痺した子どもは好奇心とあいまってベランダの柵にまたがったり(いわゆる高所平気症)、高所から物を投げ落とす辛がある。転落事故や、落下物事故が起こるまでその危険性を実感できない。1995年11月に大阪で起こった、高層階からの消火器投げ落としによる女児の死亡事件などはこれを象徴する事件である。
高層住宅という環境における集団生活への不適応は「住環境ストレス」という形で表れ、その処理の仕方によっては育児にも影響する。周辺への騒音・振動に気を遣うあまり、家の中では子どもを静かに遊ばせ、高層集合団地では園に行っても周辺住民に気をつかって自由に大声も出せない。このような環境下で、子どもたちが本来もっているエネルギーのはけ口はいったいどこに求められるのだろうか。TVに釘付けになり、ゲームでバーチャルの世界に浸る不活発な子ども、協調性のない乱暴な子どもが出てくる背景はこんな環境にあるのかもしれない
第3節 高層マンションの今後
高層マンションが将来ビのように変貌するかを予測するには十分時間経過していないため、多くの人々の不安が表面化し社会化する前に大量の超高層ストックが広範囲こ形成されつつある。
具体的には、①超高層化がもたらす居住者への健康影響、②大量化した超高層住のストックの都市環境およぴマンション中古市場に与える影響③超高層住宅であるが故にかかえる維持管理上の問題。
地球環境の視点から都市を見直すると、建物を高層化して緑地の増大を図ることは放出エネルギーの集約につながる。しかし、実際の超高層マンションによる市街地再開発では、既存市街地のなかに容積率を緩和させて人口密度を高め、エネルギーの放出を助長させている。急激な人口流入によるインフラの整備も自治体にとって大きな課題となっている。これに加えて、本管理上の課題、個の生活上の問題が潜在しているのである。
さらには、超高層マンションが建つことによる周辺に及ぼす影響も無視することができない。